約600体のセクメト像は,アメンヘテプ3世が,おそらく健康状態を改善するために,カルナクのムト神殿に置かれたと考えられています。セクメトは,頭に太陽円盤,額にコブラを付けたライオンの頭の女性として表現されています。
セクメトは,雌ライオンの女神で,その名前は「力強き女」を意味しています。セクメトは,さまざまな女神たちが持つ攻撃的な側面を象徴しており,メンフィスの三柱神のなかではプタハの配偶者,そしてネフェルテムの母という役割も持っていました。セクメトはふつうライオンの頭部をもつ女性として表現されますが,太陽神ラーの娘であるため,火を吐く「ラーの眼」として王のウラエウス・コブラとも深く結びついていました。また,ピラミッド・テキストには,セクメトが王を身ごもったという記述が二度登場します。
新王国時代には,テーベの支配者たちが権力を得たため,テーベの三柱神(アメン,ムト,コンス)がそれに応じて有力となり,他の神々の属性を吸収しはじめました。このためセクメトはムト女神の攻撃的性格の表われとして表現されることが多くなり,アメンヘテプ3世はカルナクのムト神殿とテーベ西岸の自分の葬祭殿に雌ライオンの女神の数多くの彫像を建立しました。